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執筆者の写真阿部 健

ようやく旗ができました




僕がその旗のことを初めて知ったのは、もう随分前で、絵描きの永岡くんと古本屋に立ち寄 ったときだった。 店内に入るとすぐに、一冊の本の表紙に目が止まった。表紙には、パッチワークで作られた ような旗の写真が、連続して並んで載っていた。綺麗だなと思って、手にとって眺めている と、永岡くんが、その旗は「一銭五厘の旗」だ、と教えてくれた。

本は暮しの手帖社から 1970年(昭和45年)に発行された、『一銭五厘の旗』というものだっ た。 雑誌『暮しの手帖』初代編集長・花森安治氏の自選集であるその本の中に、戦争を体験した 著者の、もう二度と同じ過ちを繰り返さないという、強い反省と強い意志が、一銭五厘の旗 として表れていた。

ここで言う一銭五厘というのは、1930 年代ごろの葉書の値段(今でいうと 30 円くらい)。 戦時中、兵隊を集める為に庶民に出されていた召集令状も、一銭五厘で届くので、それが兵 隊(庶民)の命の値段だ、というようなことを、花森氏は軍の上の人に言われていたそうだ。

30 円程度で、自分の命が国に買われても、何も言えない状況なんて、どう考えても異常だ。 国にとって都合の良い所有物にされては困る。 「一銭五厘の旗」は、民主主義を重んじる人々の、意思表示のようなものだった。

僕もそんな旗を作りたいと思った。


それから数年後、富ヶ谷にある homspun という洋服屋さんで、服の余り生地(端切れ)が、 袋にまとめて安く売られているのを見かけたので、これであの旗を作ろうと思い、一袋買っ て帰った。 しかし買って帰ったは良いのだが、裁縫を全くと言っていいほどやったことがないので、な かなか手が動かない。そのまま、あっという間にまた何年か経ってしまった。





そしてつい先日、コシラエルという傘を作っていた、友人のひがしちかちゃんの協力のもと、 長野にある彼女のアトリエにて、遂にその旗は完成した。 ちかちゃんは縫い合わせが難しいところを縫ってくれたり、素敵なアイデアをいくつも出 してくれた。生地が足りない部分には、コシラエルで使われていた余りの端切れを分けてく れて、それも縫い合わせた。最後の四辺のフチだけは手縫いでやろうと、ちかちゃんが言っ て、二人でお喋りしながらチクチク仕上げた。とても楽しい時間だった。


僕はその旗を、部屋のカーテンにして掲げている。





2023 年 8 月 26 日 阿部 健




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